40周年リレーエッセイ VOL.9(実践研究出版プロジェクト)

実践研究出版プロジェクト

藤井 博志(関西学院大学)

私の県社協職員としての経験

 日本地域福祉学会40周年記念誌『リーディングス地域福祉実践研究』がまもなく発刊される。その第1部は、実践者による地域福祉実践研究として榊原美樹先生以外は実践者による執筆である。私の役割は、ほぼメンバーの伴走的役割に終始していたと思う。しかし、かくいう私も、41歳までの19年間は兵庫県社協の職員であった。その内、16年間を地域福祉部で勤務した。主事から部長まで異動がない職歴である。それゆえに、現場の実践研究に強い関心があってこの研究会参加させていただいていた。しかし、そこでは立場上、「私」を語っていないので、ここで、現場での多数の思い出から3つに絞りエピソードを語ってみたい。
【澤田清方部長の実践の発見のしかた】
 当時、住民向きの活動パンフレットをよく発行していた。その最初は、典型事例の説明から始まるのであるが、新人の頃の私には、それがどこの活動であるかのかが皆目わからなかった。しかし、数年後にその活動が現れるという驚きが何度かあった。それは、澤田部長が、県内の地域のまだ日の目をみない住民活動の価値を誰よりも早く発見し、優しいまなざしで、そこに水と光をあてていたのだということに気づかされた。
【市町社協の活動評価項目づくり】
 私は市町社協発展計画(市町社協が地域福祉活動計画を作成するための指針書)を5期にわたり作成した。その計画のなかで市町社協が自己点検をするための項目も作成していた。12分野ごとに10段階の発展プロセスを設定する作業である。当時、90市町あり、瀬戸内から日本海まで、日本の縮図といわれた県内社協の自己点検項目づくりであるので大変である。市町社協の職員と合宿してよく議論したものである。その作業や現況調査を通して、阪神間の大都市と日本海の漁村の町を結ぶ線が見えた時が本質の発見であった。その作業の結果、私の頭には120項目のアセスメント項目ができあがり、市町社協の診断、とっさの見立てに非常に役に立った。当時の他の部員もそうであったと思う。
 【市町社協職員との研究会】
 20代後半に、市町の尊敬するベテラン社協ワーカーに自主研究会をもちかけた。そのワーカーからは、「県社協の都合で中止にしない、少人数でも毎月行う」という条件である。7~8人集まったが、毎月となると3人くらいの時も多かった。市町社協のワーカーは各自の実践報告、私は県社協の立場なので、政策、情勢報告の分担である。10年くらいは続いた。毎月の政策、情勢報告は結構、鍛えられた。しかし、私にとって最も身になったのは、市町社協ワーカーの実践報告である。少人数であるので、毎月、同じワーカーの報告を10年間、聞き続けたようなものである。要はそのワーカーと社協の疑似体験をさせていただいたのである。その当時、その社協の他の職員よりも、その社協とワーカーの住民主体の実践の本質を理解していたと自負している。
 続きはまたどこかで。

岡本 晴子(地域福祉実践研究プロジェクトメンバー:奈良県社協地域福祉課長)

省察の営みを実践者に広げたい
-40周年記念誌「リーディングス地域福祉実践研究」発刊に寄せて

 地域福祉実践には、人と人との関係のなかで紡がれる出来事や、偶然と必然が重なり合う「ワクワク」する展開、わりきれない逡巡や葛藤といった「モヤモヤ」が同居している。こうした混沌とした日々を言葉にし、その意味を問い直す省察(リフレクション)が、実践を前に進める力になることがある。
 県社協職員としての私の醍醐味は、県内各地の実践を見聞きできること、実践者が学び合い実践と理論が交差する場に立ち会えることにある。研究会などで実践の悩ましさを言語化し、他者とともに紐解く過程を経て、次の一手を見出していく実践者にも数多く出会ってきた。
 例えば、ひきこもり支援の仕組みづくりのプロセスについて、ことさら「サポーター養成講座」を強調する社協ワーカー。なぜそこに拘るのかを問い続けるうちに見えてきたのは、それが単なる講座ではなく、「ともに考え、協働する仲間(パートナー)を広げる仕掛け」であるという実践上の重要な因子であった。この価値が言語化されたとき、実践は確かな輪郭を持ち、同じ課題に向き合う他の実践者にも示唆を与えるものとなる。
 毎夏開催している「なら小地域福祉活動サミット」では、活動者自らが活動の原点や歴史、見えてきたことを語り、関心者と共有する。「振り返ることで新たな気づきがあった」「活動の価値を仲間と再確認できた」といった声が多く聞かれ、活動のワクワクの意味を見つけたり、次の一歩につながることもある。こうした場に立ち会うたびに、実践を省察することそのものに、地域福祉の実践を豊かにする力があるのだと実感する。
 この間、本学会「地域福祉実践研究プロジェクト(2024~2025年度)」に参画し、12名のメンバーと議論を重ねてきた。そこで印象に残ったのは、「安易な普遍化をしないこと」と「実践を構造化し意味を見出すこと」という二つの視点である。一見すると相反するようでいて、どちらも実践研究の核心を突いている。
 もとより実践には正解がなく、それぞれの地域や関係性のなかで固有の展開を辿るため、その事象を安易に一般化することはできない。一方で、実践を深くていねいに紐解き、研究的な視点で問い直すことで、その価値や要因が浮かび上がる。その知見は、他の実践者にとっての道しるべとなり、仲間や多様な主体と分かち合うことで新たなエンパワメントが生まれる。
 本書第一部では、実践者自らが苦あり楽ありのリアルな実践研究体験をもとに、研究の動機や具体的な方法、組織に実践研究を根付かせるための視点を紡いでいる。私たちの実践研究は、研究のための研究ではなく、実践を豊かにするための営みである。その敷居を少しでも低くし、実践に携わる仲間のあいだに省察の文化が静かに広がっていくことを願って、研究会メンバーみなで原稿と格闘した。間もなく発刊、ぜひご高覧いただきたい。

40周年リレーエッセイ

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