会長挨拶
ご挨拶
日本地域福祉学会 第14期会長 松端 克文

この度、日本地域福祉学会の第14期会長に就任いたしました松端(まつのはな)です。よろしくお願いいたします。以下、少し長くなりますが、ぜひお付き合いください。
日本地域福祉学会は、地域福祉に関する研究、会員相互の連絡と協力、内外の学会との連携を図り、地域福祉に寄与することを目的として、1987年11月に設立され、2026年に40周年を迎えました。本学会の研究プロジェクトとしての「地域福祉アーカイブ研究会」では、学会創設当時に関わられた先生方にインタビューさせていただき、その内容を整理するという取り組みが進められています。また、日本地域福祉学会のホームページには、「設立40周年記念特設サイト」を設け、全国に8つある地方部会ごとの「リレーエッセイ」(VOL.1~VOL.8)が掲載されています(40周年記念特設サイト)。
この6月20日(土)-21日(日)には、日本地域福祉学会第40回大会(岩手大会)が岩手県立大学において、「東北から拓く 地域福祉の創造」というテーマで開催されました。実行委員会のみなさま、関係者のみなさま、そして第13期の理事のみなさま、ありがとうございました。
現在、本学会の学会員は約1,500名ですが、会員のうち社会福祉法人や社会福祉協議会、行政といったいわゆる研究者以外の現場の実践者が約半数を占めていることが大きな特徴だといえます。地域福祉という学問の特性からしても、研究者と実践者とが協働して研究することが大切にされてきたといえます。そうしたこともあり、学会設立40周年を記念して、今年の5月には『リーディングス地域福祉実践研究』(CLC、2026)が発刊されました。上記の特設サイトには、この編集をご担当いただいた「実践研究出版プロジェクト」によるエッセイがVOL.9として掲載されています。
さて、第14期の方針としましては、ことさらに新しい事業を掲げるというよりは、これまでの取り組みを踏襲しながら学会運営にあたるということを基本に進めていきたいと思います。そしてやはり「学会」である以上は、学会という場をこれまで以上にしっかりと「議論」ができ、「研究と実践との往還」を通して形成されるプラットフォームにしていきたいと思います。
今日の日本社会は、人口減少・少子化に歯止めがかからず、全国の9割以上の市町村で人口が減少しているなど地方の衰退も著しく、全業種にわたって人材不足に陥っており、生活課題・福祉課題も複雑化し、深刻化しています。地域福祉の理論や実践の射程をどのように定めるかということとも関わりますが、さまざまな理由で困難な状況に置かれている一人ひとりの住民の暮らしの実態をしっかりと把握し、その改善に向けて本人を中心に地域住民や各種の専門職、関係機関・団体の人たちが暮らしの場である「地域」を基点として「きょうどう(共同・協同・協働)」して実践し、地域そのものをより暮らしやすい地域へと変えていくところに地域福祉の醍醐味があるといえます。ですので困難な状況に置かれている人・人たちの生活を基点とした地域での実践により生じる波紋は、より大きな社会へと開かれ、広がっていくものだといえます。
こうした議論については、昨年(2025年)に武庫川女子大学を会場として開催された日本地域福祉学会第39回大会(兵庫大会)のテーマ(「地域福祉における『住民自治』のあり方を問う」)でもあり、私も登壇させていただきました基調鼎談「地域福祉における『住民自治』をめぐる論点整理」においても議論いたしました。その内容は、大会の拡大実行委員会でもあった近畿地域福祉学会により『基調鼎談記録―地域福祉と住民自治』として報告書がまとめられています。学会ホームページにおいてもPDF版が掲載されていますので、ぜひ目を通していただければと思います。
地域福祉の理論や実践をめぐっては多くの論点がありますが、まずは福祉業界が極めて厳しい状況にあることを直視する必要があります。全国的に取り組まれている包括的支援体制づくり、それを具体的に進めるための重層的支援体制整備事業は、果たしてどのような成果をあげているのでしょうか(私の包括的支援体制づくりに関する見解は、松端克文(2025)「地域における包括的支援体制とソーシャルワーク」『エンサイクロペディア社会福祉学(第2編)』中央法規をご参照ください)。
多くの実践現場では、福祉専門職の確保もままならず、ボランタリーな福祉活動を担う住民もどんどん少なくなっています。地域福祉は「福祉教育」をその重要な構成要素として含みますが、では実際に福祉教育はどのように行われているのでしょうか。福祉専門職を養成する福祉系大学をはじめとした教育機関では、募集定員を満たすことに四苦八苦しています。
厚生労働省が掲げ、実践現場で枕詞として用いられる「地域共生社会の実現」には、いったいどれほどのリアリティがあるのでしょうか。「共生」を求める背景には必ず「排除」がありますが、仮にその「排除」が解消されたとしても常に別の「排除」が生じます。つまり「共生」はその実現に向けて絶えず更新し続けるしかなく、完成形はあり得ません。地域生活課題に関する議論においても、それが複雑化、多様化しており、法制度による対応(「非人称的な連帯」にもとづく再分配)に限界があるとして、ではそれを地域での顔見知りによる助け合い、すなわち「人称的な連帯」でどれくらい代替可能なのでしょうか。親しい関係だからこそ頼りにくく、むしろヘルパーのほうが頼りやすいということは普通にあります。にもかかわらず、そうした議論があまりなされず、地域での助け合いが過度にあてにされ、推奨されています。
よく「すべての住民が…」といわれるのですが、実態としてたとえば生活保護受給者はその「すべて」のなかに含まれているのでしょうか。生活困窮者自立支援法に基づく取り組みにおいては「社会的孤立」への対応が重視されてきましたが、同法の成立と抱き合わせで生活保護費が一方的に削減されたことに対する言及はほとんどありませんでした。
このように例を挙げ始めるときりがないのですが、学会における「議論」は、こうした現実に真摯に向き合うことから始まるといえます。日本社会に蔓延している「やったふり、やってるつもり」状況を、「本気でやる」状況へと変えていかなければなりません。大学での教育を含め広い意味での「福祉教育」のプログラムにふれる人たちの“魂”をいったいどれくらい揺さぶることができているのでしょうか。その一方で、何気ない地域でのささやかな活動にふれることで癒され、明日へとつながる活力をもらうこともあります。地域にはこのような「研究意欲が高まるような実践」が多くあります。では「実践に向けて力が湧くような研究」はどれくらいあるのでしょうか。
昨年の第39回兵庫大会では、名誉会員の大橋謙策先生と上野谷加代子先生によるスペシャル・トークライブが行われ(その記録は『スペシャル・トークライブ報告集』としてまとめられています)、今年の第40回岩手大会においても大橋先生によるスペシャル・トークセッションが行われました。
先の地域福祉アーカイブ研究会におきましても「阿部志郎先生にきく―学会へのメッセージ―」をはじめ順次インタビュー等の研究が進められていますが、私たちには学会を築いてこられた先生方の理論や活動に込められている「熱い想い」を継承し、今日の閉塞した状況をブレークスルーしていくことが求められています。
学会員も減少傾向にありますが、地方部会の会員が主催する研究会や学習会、地域福祉実践を対象とした調査研究などの活動に対して助成する制度ができています。さらに今期中には若手研究者の研究をサポートする制度を創設する予定ですが、こうした取り組みを通じて、よりいっそう学会活動を活性化していきたいと思います。いま、問題に気づいたのなら、とにかくそこにいる人たちと“一緒”に、まずなんらかの取り組みを始めてみる(Do it with others!)。
先に紹介しました『基調鼎談記録』では、登壇者メッセージとして最後に「私たち一人ひとりの身近なところから、他者を思いやり、心温まるエピソードを紡ぐ『小さな自治の実践』を、困難な状況に置かれている人たちと共に、悲壮感を漂わせるのではなく、それでも“楽しく”積み重ねていくしかないのではないか」と述べさせていただきました。
地域福祉学会は、研究と実践をつなぐ「プラットフォーム」であることを大切にしてきました。この“地域”発で社会を変える研究と実践のプラットフォームに、ぜひご参画ください。
(2026年7月9日)
