40周年リレーエッセイ VOL.4(近畿部会) 

近畿部会

小林 茂(兵庫大学)

被災地での第10回年次大会

 学会創設から学会員である私が一番印象に残っている年次大会は第10回大会である。この大会は阪神・淡路大震災の翌年の1996(平成8)年6月に被災地・神戸市で開催された大会であった。当時、私は30代半ばで、兵庫県社会福祉協議会(以下、県社協という)に勤務していた。そして年次大会事務局の一翼を担うことになった。
 年次大会が被災地で開催される話が県社協にもたらされたのは、発災後半年経った頃であった。この話を県社協事務局長からはじめて聞いたとき、大会開催は「反対」の気持ちが強かった。震災後、県社協業務は格段に増え、多くの職員が休日返上の業務が続いているうえ、被災者である自身の生活再建で精一杯であった。そのため年次大会開催は「何かの罰か」とさえ思ったのである。慣例に従えば共同事務局を担う予定であった神戸市社協も同じ状況であった。大局的に見れば、大震災直後に被災地で地域福祉学会を開催する意義は大きい。しかし当時の年次大会運営は開催地の社協事務局員がその殆どを担っていたため、とても大会開催を実施できる状況ではなかった。ただ、私が大会開催反対の気持ちにはもう一つあった。それは被災地での社協が取り組んでいることを批評家のように評価されたくなかった。当時の被災地社協職員は本当に奮闘した。しかし現地に出向けば「何をしているんや」といった声を住民等から直接浴びせられ、自身の無力さを痛感する日々を過ごしていた。そんな時に、被災地外からの評価は怖かった。評価を冷静に受け止める力はなかった。それは多くの地域福祉実践に携わる者の共通な気持ちだったと思う。
 県社協幹部から第10回年次大会事務局を引き受けたと聞かされた後、何人かの同僚と一緒に学会にいくつかの条件を出した。それは「企画から運営を事務局任せではなく、学会員が主体的に行うこと」「実行委員会は被災地で行うこと」「被災地の声を尊重すること」などであった(やや曖昧な記憶であるが)。こんな小生意気な要望を学会幹部は真摯に受け止めていただき、実行委員である多くの研究者達が主体的に年次大会を企画、運営を担っていただいた。つまり、学会が被災地の現場の声に耳を傾け続けた姿を見たのであった。そのことが私の頑な気持ちを氷解させていったのである。そのこともあり年次大会最終日、関係者と「大会をやれてよかったな」と語り合えたのを思い出す。
 今日、年次大会をはじめ各種研究会の開催、研究誌発行などは当たり前のように学会員の主体性のもとで実施されている。そして地域福祉学会は常に実践現場との対話を尊重している。この学会の主体性、実践現場の尊重の基本姿勢は今後とも堅持されることを強く願うものである。

谷口 郁美(滋賀県社会福祉協議会)

 科学の視点、複眼的思考は現場の私の栄養剤

 30代前半(1995年から2000年頃)はよく調査活動をしていた。滋賀の子どもたちの福祉に関する意識調査を県内全域の小学校、中学校の協力により実施したときには、量的調査の結果を深めるために小学生の子どもらのインタビューを行った。子どもらは誠に正直で、「学校で、障害のある人もみんな仲間やと習ったけど、お母さんは、施設には近づかんときやと言わはる」と。このとき私たちは、だからこそ学校という場での福祉教育は大切にしたいということと、子どもらの親世代、祖父母世代である大人が大人として福祉を学び、それぞれの福祉意識をアップデートしていく取組みをどう進めるか、これは社協の実践課題だと実感した。
 このころの私にとって学会は、自分たちの実践研究の成果を発表し、同じような課題意識をもっている研究者や実践者の人たちとの出会いと刺激を受ける貴重な機会だった。しかしこれはあくまで私個人の仕事へのモチベーションを高めるものだった。
 学会とのかかわりが、“私個人”から滋賀県社協の実践にかかわることに変わっていったのは、市町社協会長会と県社協が共同で取り組んだ「研究会事業」によるところが大きい。当初は、市町社協のリーダー的職員と県社協でプロジェクトをつくり、国・県から市町社協への大型補助事業や人件費補助がなくなるなかでどのように社協活動を強化していくかを経営的側面から検討し、提言と事業企画をしていくというものだったが、うまく共同にならず、県社協の案に対して皆が意見を述べるという一方通行的様相だった。
 それが変わったのは、この企画を平野隆之先生に相談し、先生とともに社協職員が研究会をしていくことになってからだ。参加メンバーの主体性とスピード感、そして着実に研究会として成果を積み上げ、効果が見え始めているという実感。たいへんだったが定期的に研究報告という宿題があり、それに対する外からのコメントと省察は、現場の私たち社協職員の科学的な目、複眼的な思考力に効いた。企画メンバー総出演の動画による社協強化テキスト(当時は画期的)、奥田祐子さんとの連続レポートなど、平野先生らとの研究会事業は、“高み”への難しさと努力する楽しさに満ちていた。
 今回、このリレーエッセイに研究会事業のことを書いたのは、この感じが私にとっての地域福祉学会の価値の一つだと考えるからだ。研究と現場がそれぞれの目的をしっかりと持ち、かなり真剣勝負でそれぞれの意見や理屈、考えをぶつける。どちらかがどちらかのサポーターやアドバイザーになるのではない。現場に研究が入り込む、研究に現場が入り込む。融合。そんな学会活動が次世代へと続くことが楽しみです。

日本全国8地方部会リレーエッセイ

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